「枕」
黒川鍵司
僕の部屋にはじめてきたとき、君が枕を抱えてきたことにちょっと驚いた。
「これがないと寝れないの」
上目使いで、駄々をこねるように言う君に、呆れたような、嬉しいようなあいまいな表情しか返せなかった。
そうやって、なんでも黒尽くめにしてしまう僕の部屋に、そのピンク色のふわふわした枕は持ち込まれた。
その夜、ふと目が覚めてベッドから起き上がると、僕の頭があった場所にずっと使っている黒い固い枕はなく、なぜか君の頭の下にある。頭の中を「?」で一杯にしながら覗き込んでみると、ピンクの枕は、君の腕の中にしっかりと抱え込まれていた。
「そういうことか」と妙に納得して、枕を取られたことに腹を立てることもなく、僕はもう一度寝てしまった。
彼女が帰った後も、枕のピンク色が視界の端に飛び込んできて、僕の視線を引き付けた。振り返って見つめるたびに、それを抱き安堵しきった彼女の姿を思い出して、例のあいまいな表情を浮かべてしまう自分がいた。
その後も次々と品物は持ち込まれ、そのたびに僕の部屋はカラフルになった。マグカップに、ヌイグルミに、壁掛けのCDラック、そんなものがたくさん。日が落ちてくると、以前ならば蛍光灯の白い光に照らされた、黒い無機質な部屋がそこにあるだけだったが、その黒い部屋は今や背景となって、様々な色のものが光の中に浮かび上がる。それら一つ一つに理由があって、意味があって、視界に入るたびにそれが持ち込まれたときのことを思い出した。
「黒ばっかりじゃ、お葬式みたいだよ」
夏に向かって髪を切った君は、黒いものを買ってきた僕をそう叱る。そして君が選んだ品物が、僕が買ったものの倍くらい持ち込まれる。冷蔵庫にくっつけるマグネット、小さな目覚まし時計、木製の写真立てなどなど。
カーテンが開かれて、日の光が差し込むことも多くなったし、窓が開けられて、風が部屋を通り抜けていくことも多くなった。一人でベッドに腰掛けていても、以前は何も変化せず、何も感じられなかった部屋の中で、風の匂いや日のかげり方で、季節や時間の変化が自然と感じられるようになった。夏の日の暑さも、雨の降る直前の湿気も、それを感じられること自体が嬉しかった。

君がいなくなって3ヶ月たった今、この部屋は次第に元の黒尽くめに戻りはじめている。昼もカーテンが閉じられ、ヌイグルミはもらわれていき、CDラックは外され、写真立てはしまわれた。でも、一人で寝るにはちょっと大きすぎるベッドの上に、あの枕だけはいまだにフワリとのっていて、ときどき僕にあの表情を浮かべさせている。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 12:40) フォント
発想
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総合
ひとつ疑問。彼女は「これがないと眠れない」のに彼の部屋に枕を置いて帰ってしまうのですか?
さらさらと読める構成は良いと思いました。持ち込まれたものの色をもっと感じられたら、黒尽くめの部屋がカラフルになる様子がより出る気がします。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 02:24) フォント
発想
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総合
WEB日記やテキストサイトに慣れると怠りがちですが、書き出しと段落を変える際は一段下げるのが基本です。

『枕を取られたことに腹を立てることもなく、僕はもう一度寝てしまった』は、おそらく子供がお気に入りの毛布を手放せないように、枕を抱えて眠る彼女が可愛かったので腹を立てなかったのだと思いますが、この一文だけでは読者には僕がなぜ腹を立てなかったのかは伝わりません。

『これがないと眠れない』はずの彼女が枕を置いていくのはどうかという突っ込みを入れたくなります。
彼女がいろんなものを持ち込んで華やいだ僕の部屋が、彼女と別れて黒一色の部屋に戻ったというストーリーに、無理矢理『枕』を合わせてしまったために、矛盾が生じているのではないでしょうか?

『僕の頭があった場所』はシンプルに「僕の頭の下」で良いかと思います。随所にこういうところが見受けられました。
『その』『あの』といった指示語もあまり使いすぎない方が良いと思います。私も割と指示語を連発しがちなのですが、多用しすぎると何を指しているのかわかりづらくなりますよ。

厳しいことばかり言ってしまいましたが、ご容赦ください。

□名無しさんからの批評 (2003/10/11 11:22) フォント
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総合
黒尽くめの部屋が「今や」明るくなった、という話かと思うと、最後でさらに時間が経過していて「いなくなって3ヶ月」で部屋も元に戻りつつある、とあります。
おそらく、邪魔なのに大きな枕を残しておくことが主人公の未練の象徴だというのを書きたかったのだと思うのですが、別れる前のエピソードが全然未練がましくありません。むしろ、黒尽くめの部屋が明るくなっていく過程やそのささやかな喜びが活き活きと書かれているほうが面白いのですが、そこに時系列がよく解らないという問題が絡んでしまったために、枕についてのエピソードが取ってつけたようになってしまっているのでは?
最後で唐突に別れた後の場面にして読者を驚かせる手法なのかもしれませんが、ここは男の未練の物語風に書いたほうが発想を活かせるような気がします。
□セツナビトさんからの批評 (2003/10/11 11:39) フォント
発想
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総合
小悪魔っぽい彼女との甘い思い出ですね。黒い部屋にピンクの枕というのが印象的で好きです。
さて、他の方が書かれていましたが、そんなに大事な枕を置いて帰るのか? という疑問を、私も持ちました。おそらく、彼女は「僕」の部屋に住むようになったから、置きっぱなしになったのだろう、と推測いたしましたが。そこら辺の記述がありません。どうだったのでしょうか?
それと、細かいことですが、彼女が髪を切った話は必要だったのでしょうか。本当に短い記述しかありませんが、どうしても気になりました。
あと、一文が長いところがちらほらありました。接続詞をうまく使えば、もう少し短く読みやすくなると思います。

構成自体はすっきりとしていて、さらさらと読めました。これからもがんばってください。
□さよさんからの批評 (2003/10/11 13:13) フォント
発想
構成
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総合
さらさらと読めました。
「例のあいまいな表情を浮かべてしまう自分」のあたりに、主人公の性格がうかがわれます。素敵な表現だと思います。
ただ、黒ずくめの部屋に、彼女によってカラフルな小物が次々と運び込まれてくる、というのが、もっと詳細に書きこまれていると、その後、彼女がいなくなったあとの変化が、もっと際立ったかな、と思います。
全体的には好きな話です。次回も期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 13:37) フォント
発想
構成
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総合
枕を抱いて眠る彼女の姿を目に浮かべると、とてもかわいらしく、とても愛らしい。
そんな幸せな気持ちに溢れている文章でした。

最後の5行を除いて。

ここで彼女と別れさせる必要はなく、何の説明もない。折角、ふわふわしてかわいらしくて幸せな気持ちにさせてくれる文章だったのに、唐突で理由の無い別れが全てを台無しにしてしまいました。
とても残念です。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 21:22) フォント
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構成
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総合
幸せなふたりにもいつか終わりが来ることは、仕方ないと思うのですが、ここで別れさせてしまうのはもったいないと思いました。
そこまでの幸せな雰囲気がとても良い感じだったので、そのままほのぼのとした爽やかなラブストーリーでも良かったんじゃないでしょうか。
こういう優しく柔らかな雰囲気を書ける男性は少ないと思うので、次回も楽しみにしています。頑張って下さい。
□Rさんからの批評 (2003/10/12 23:27) フォント
発想
構成
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総合
良いと思います。
変わっていく自分の部屋と感情が呼応していて、さらには、最後で戻ってしまうが、未練で枕を捨てられない、という心情を豊かに描けているよいお話でした。

ただ、少々くどい部分がありました。彼女が持ち込んだ物の羅列は1度で良いと思います。これが、20枚程度の短編なら良いのでしょうが、いかんせん、3枚と限られた紙面の中では邪魔だとは思いますが。

そのため、起承転結の一番重要な部分、このお話では「転・結」の部分ですが、そこが不充分になっている。確かに短文で終わらすのも1つの手法ではありますが、どうも紙面の都合上の理由のような感じを受けました。

上記にもありますが、男性でこのような文を書ける人は稀有と思います。感性を大切にして、次は文則を守って書いてみてください。
□ともろさんからの批評 (2003/10/13 15:07) フォント
発想
構成
表現
総合
主人公の淡々とした口調が好きでした。

「発想」:
内容としては少々ありふれたものだと思いました。

「構成」:
流し読みされてしまいます。平坦と続く文章で、読者は緊迫感を覚えることなく最後まで読み終えてしまう。

「表現」:
表現は素晴らしいです。色の描写、風や日などの情景描写、雑貨にも具体的に記されていて鮮明です。空虚な読後感も好きです。

「総合」:
テンポ良く読めないという点が難点でした。表現ももうすこし独自性を出してみるなどの工夫をしてみると、さらに良いものになると思います。次回作が楽しみです。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 12:03) フォント
発想
構成
表現
総合
前段にいろいろつっこみどころがありますが、最後のシーンは個人的に非常に好みです。それだけで全部許したくなるくらい。

ぬいぐるみを人に譲るとあるので、死別かもしれませんね。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 20:34) フォント
発想
構成
表現
総合
表現が、あまりわたしの好みではありませんでした。
私的感情入れすぎ申し訳ありません。
もう少し表現を変えてみると、いいような気がしました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 01:16) フォント
発想
構成
表現
総合
総合だけ花になってますが、文章そのものの熱意は伝わってくるので、総合が花になりました。
 青春モノ(とカテゴライズするのもいけないが)には弱いんです。私。そういう素敵な青春がなかったもので、小説は自分にないものを見つけて楽しむという点で、私個人の実生活に照らすと羨ましくなるんですよねえ。 小説は、アダルト小説にせよ、青春を描いたものにせよ。娯楽小説にせよ、自分にないもの、が描かれるわけで、弱いんです。
 で、別れたと思った彼女は枕があるからまたもどってくるのかしらん?(感情移入しすぎ?)
次回、期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 01:48) フォント
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構成
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総合
文法的規則の問題については、今さら書くこともないと思います。それらをきちんとやるだけでも読みやすさや印象が変わるので、今後は是非そのようにしえもらいたいです。
内容的には、時間的流れとともに移り変わっていく様子が上手く書いてあったのでいいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 20:58) フォント
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総合
 最初は別れたのかと思っていましたが、置いてあるものを全て引き取らずにいなくなったということは、もしかして、彼女は死んでしまったのでしょうか。なんだか切なかったです。

 段落の一文字目は下げた方がいいです。それに「これがないと眠れない」のに置いて帰るのはおかしいので、推敲の際には辻褄があっているかどうかを確認するといいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/22 00:33) フォント
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総合
黒い部屋がカラフルになって、再び黒い部屋に戻っていくという過程がイメージとして、あまり沸いてきませんでした。もう少しその辺の描写がほしかったです。
彼女は死んでしまったんでしょうか。物(特に枕)が残されているのでそう思いました。
□匿名さんからの批評 (2003/11/04 13:04) フォント
発想
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総合
彼女、かわいいですね。読んでいる方も、何となく微笑ましい気分になります。
冒頭で枕を置いて帰ってしまうという描写がありましたが、この二人は同棲を始めたばかりで、彼女は自分の持ち物を取りに帰ったのかな?と自分は解釈しました。ただの矛盾にせよ、推敲の余地がある点ですね。
ラストですが、彼女とは死別したと解釈しました。最後の段落が今でも彼女のことを思う、主人公の心情をうまく表現できていると思いました。
どうとでも解釈できてしまう文章に自分はあまり抵抗はありませんが、もう少しストーリーが目に見えてくるといいと思います。
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