「贈り物」
トビイ・マクドナルド
 敬老の日の前日、芳蔵は宅急便を受け取った。差出し人は「ホタル」と孫の名が書いてあった。そして小さな蛍の絵が。包みを開けてみると小さめの枕と手紙が入っていた。枕は手作りだった。芳蔵は嬉しくなって涙を流した。年のせいか、涙もろくなっていた。
荷物を受け取った後、芳蔵はいつものように近所の病院行きのバスに乗った。病院はとても混雑していた。芳蔵はすぐさま待合室で皆に孫の自慢話を始めた。
「敬老の日のプレゼントだよ、まだ十歳になったばかりなのに蛍はしっかりした子じゃ」
芳蔵は友達のハルコに言った。
「そうかい、あの蛍ちゃんも十歳になったんだねえ。うちの孫なんて、いつもお小遣いをねだるだけでそんな事なんて一度もしてくれないよ。もう中学校に行く年なのに…… 明日は敬老の日だったねえ。だから今日はこんなに病院が混んでるんだねぇ」
ハルコさんの言葉に嬉しさを隠せなかった芳蔵だったが、彼女が少し淋しそうな声をしていたので云った。
「手作りの枕だから、小さいのじゃ。縫い方もなってない。明日は娘の家でわしのお祝いをやってくれるんじゃが、わしの娘はいつまでたっても料理が下手でなぁ……」
「江本さん。江本芳蔵さん、診察です。」
芳蔵の診察の呼び出しだった。
「おお、わしの番じゃ。今日は若い女の先生じゃな、じゃあねぇ、ハルコさん」
ハルコは嫉妬したような声で云った。
「ばかだねぇ、この爺さん。あの女医さんに色目使うなんて、本当に年甲斐もなく」
芳蔵は杖を突きながら診察室に向かった。
 翌日、蛍は料理をしている母の傍で座り込みながら携帯電話でゲームをしていた。
「おかあさん?おじいちゃん、いまごろどうしてるかなあ」蛍は母に尋ねた。
「今日はお天気がいいから、きっと盆栽いじりでもしているでしょう。今日はお父さんが車でおじいちゃんをお迎えに行くのよ。蛍も一緒に行く?」
携帯電話で遊んでいた蛍は喜んで云った。
「いく、いく。だって、まくらに入れたおまじないがどうなったかたのしみだもの。今、おじいちゃんに電話していい?」
「いいわよ、電話して。でも、あの枕はちゃんと返して貰うのよ。小さかったから大きいのをあげるって言って。新しい枕を買ってあるから、それを持っていくのを忘れないでね。本当に蛍は悪戯好きなんだから。でも枕に藁人形を入れるなんて縁起でもないわ」
蛍はつまらなそうな顔で云った。
「でもねぇ、お母さん。さっちゃんちのおじいちゃんは、お正月におもちを食べたら、おむかえがきたっていってたよ。さっちゃんはおまじないがきいたっていってたもん」
 母は包丁の手を止めた。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 19:33) フォント
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ブラックで良いですね。おじいちゃんの喜びようと、お母さんの冷たさと、蛍ちゃんの無邪気さが良いコントラストになっていると思います。
ただ設定として蛍ちゃんが10歳にしては無邪気すぎるかな、と思いました。
□セツナビトさんからの批評 (2003/10/11 00:11) フォント
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ブラックですね〜。こういうお話は好きです。最後のさっちゃんの話で、そうだったのかー! と感動してしまいました。蛍ちゃんは本当に10歳なのか? いや、現実にあったら怖いです……。
気になったのは、ハルコさんと芳蔵のシーン。ハルコさんの名前は出さなくてもよかったんじゃないでしょうか。友人とか、知り合いとか第三者的な書き方でもよかったのでは。『ハルコは嫉妬したような声で〜』のくだりも、その後の話に絡んでこないので、なくてよかったのではないかと思います。これが『最近の子供は何をするか分からん』的なことを言ったなら、オチの伏線になったかもしれませんが。
あと、『?』や『!』のあとは一文字あけた方が読みやすくなります。

ともあれ、そんなことがさほど気にならないほど、ラストが強烈でした。他のお話も読んでみたいです。これからもがんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 13:12) フォント
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最後にすこん、と落とされました。
おもしろいです。
気になったのはやはり『ハルコは嫉妬〜』と、蛍ちゃんの年齢でした。
ハルコさんが若い人ならともかく、この年齢の感情としてはくみとりにくいです。
あと死について無邪気に語れるのは小学校入学前、くらいじゃないでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 19:13) フォント
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敬老の日の前日にどうして病院が混むのか私にはよくわかりませんでした。
で、やっぱり私もハルコさんの嫉妬と蛍ちゃんの歳が気になりました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 21:33) フォント
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気になるところは他の方が書かれているので割愛します。あと年齢的な表現がちょっとベタな感じを受けますが、短編ゆえに仕方ないかも知れませんね。
読者の想像力に委ねる部分を残しつつの、最後のゾッとする感じ、とても良いです。
次回も期待しています。頑張って下さい。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 01:41) フォント
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ブラックユーモアとしては最高でした。

ただ、前半の表現色々と気になる点がありました。
いちいち列挙はしませんが、年寄りの会話が年寄りの会話として聞えてこないというこおとが一番大きいです。絵に描いたような年寄り言葉ではリアリティーが無く、面白みが半減してしまっているように感じます。

1200文字と短い文章であるということが分らなかったら最初の500文字くらいで読むのを止めているところでした。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 04:22) フォント
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発想が良いですね。孫の手作りプレゼントを喜ぶ芳蔵と、子供の無邪気な中にある残忍な心の温度差が面白い。

『でも枕に藁人形を入れるなんて縁起でもないわ』は少し説明的かな、という気がします。ここで初めて人形の存在が明かされるのも唐突です。
例えば、いかにもな藁人形ではなく紙人形とか粘土の人形にして、冒頭部で芳蔵が枕の中の人形を見つけ「可愛い人形だ」というような伏線があって、母が「ところであの人形は何?」といった疑問を投げかけ、蛍が「おまじない」と返すやりとりがあれば、蛍の最後のセリフが更に生きてくるのではないでしょうか?
ラストで母の手が止まるのも、禍禍しいイメージの藁人形と知っているより意外性があった方がリアリティを増すでしょうし。

その辺を書き込むために、文字数を確保するならば、大筋には関係ない部分ですので芳蔵の『今日は若い女の先生じゃな』と『ハルコは嫉妬したような声で云った。』に続く、芳蔵とハルコさんの微妙な関係を表す部分は削っても良いと思います。

『携帯電話でゲームをしていた。』の少し後の『携帯電話で遊んでいた蛍は〜』文章が近いところで同じ表現が繰り返されていて、ややくどい印象を与えます。「蛍はゲームから顔を上げると〜」のような表現でも意味は十分通じると思いますので、工夫すると良いと思います。

一人称よりも難しいとされている三人称でうまく進行していた物語が、『母は包丁の手を止めた』で、蛍からみた「母」になっているのが、良い終わり方だっただけに残念です。
芳蔵とハルコの会話で、『わしの娘』ではなく「○○(娘の名前)」としておけば、「○○は包丁の手を止めた」ときれいにまとまったと思います。芳蔵は『明日は娘の家で』と先に言っているのですから、その後に娘を名前で呼ぶのはおかしくないと思いますよ。

↑みなさん指摘されていますが、蛍の年は10歳だったのですね(実は見落としてました)
確かにこういう無邪気さを持ち合わせているのは低学年レベルまでのような気もします。ただもっと低年齢にすると、針と糸を使えるという設定に無理が出るからかな、と思わないでもありませんし、難しいところですね。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 04:27) フォント
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7番目の評者です。(2003/10/13 04:22)

「構成」と「総合」のプルダウンを間違えました。すみません、再送します。


□いのこさんからの批評 (2003/10/13 19:52) フォント
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話の中盤まではおじいちゃんと孫の心温まる話なのかな??と思って読んでいたので、最後のオチで、おい!そう来るか!といった感じでした。全体的にはよかったと思います。が、ブラックで締めるのであれば、最後はもっとズッシリ来る強烈なものがヨカッタです。例えば枕をくれた孫は既に死んでいて・・・おじいちゃんも実は入院中、しかも植物状態。で、この話自体はおじいさんの最後の夢でしたみたいな。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 23:44) フォント
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やっぱりこの分量だと辛いものがあるなと思いました。ショートショートとして楽しむにしては毒がやや薄いでしょうか。
それと、途中の老人の会話はもうちょっと魅力あるとうれしいと思いました。でも分量は辛いですね。

□水夫さんからの批評 (2003/10/14 12:19) フォント
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良いです。楽しませて頂きました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 12:42) フォント
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読み終えた後に、喉に小骨が刺さったような不快感。(←褒め言葉です)ブラックな話を容赦なくブラックに書ける力は凄いと思います。ラストでゾクゾクきました。こういうの好きです。
ただ、地の文で芳蔵がハルコさんを呼び捨てにする個所とさん付けで呼ぶ個所があるのが気になります。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 20:57) フォント
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オチの予測がつきませんでした。
そのすごさに嫉妬さえ感じてしまいました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 02:10) フォント
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ブラックな話で個人的には楽しめたが、その発想に表現がついていけてない気がする。
調所随所に読者の想像力えお試す部分があるのはおもしろかった。
□名無しさんからの批評 (2003/10/22 00:02) フォント
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最初ののどかな雰囲気とラストの黒さとのコントラストにぞっとしました。素直にいい作品だと思います。
でもちょっとラストの意味がわかりづらかったです。数回読み直しました。
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