「ダンボールと枕」
ともろ
 午前四時に目を覚ますと、枕元に恐竜がいた。ポリバケツほどの大きさで、ゆっくりと辺りを歩き回っている。おそらくティラノサウルスなのだろうが、頭と胴体の大きさの比率がおかしくて、まるで子供の落書きのように見える。
 昨日の昼から降り続けている雨が恐竜の肌を洗っている。紙でできているのか、頭の方から柔らかくなって、終いには紙くずになった。地面に溶けていく恐竜の愛しげな視線が、私のぼろぼろの枕に注がれている。
 この枕を拾ったのは、街の外れにある高級住宅地のゴミ捨て場だった。子供用の枕なのだろう、アニメのキャラクターが原色で描かれている。端の辺りに小さな穴が開いていて、そこから綿が飛び出していた。大きさも形もちょうど良かったので、そのまま持って帰ることにしたのだ。
 恐竜を見た次の日に、私は公園で寝床を見つけることができた。この公園は縄張り争いが他の公園ほど熾烈化していないが、治安がひどく悪い。ホームレス狩りなどを警戒しながら、私はその日もダンボール箱の中で眠りに落ちた。
 嫌な夢を見て、午前三時に目を覚ましてしまう。再び眠りに入ろうと、しばらくまどろんでいると、枕の中から何か音が聞こえる。ボールが転がる音。若い男の叫び声。次の瞬間、枕の穴からサッカーのユニフォームに身を包んだ、中学生ぐらいの少年が飛び出してきた。少年はやはり枕の穴から出てきたサッカーボールを巧みに操り、シュートを撃った。ボールは鮮やかな曲線を描きながら、空の彼方へ消えていく。少年はガッツポーズを掲げながら、公園中を走り回っている。私は染み入るような幸福感に満たされ、そのまますっかり眠り込んでいた。
 ティラノサウルスやサッカー少年は、どうやら夢のようだ。長い間に枕が吸い込んだ、持ち主の少年の夢だ。恐竜が幼少時代の夢だとしたら、見事に決まったシュートは、少年が小学生の時に見た夢ではないだろうか。私は、あまりにも無邪気で美しい少年の夢にすっかり魅せられている自分に気が付いた。
 次の日の晩、私は興奮してなかなか寝付けなかった。次は何が出てくるのだろう。順番にいくと、次は少年が中学生の時の夢だろうか。
「オッサン」
 振り向く間もなく、鋭い衝撃が私の後頭部を襲う。私はその場に倒れこんだ。ヘルメットで顔を隠した若い男が一人、私のリュックサックを物色している。流れ出た血が鼻筋を伝って地面に落ち、血溜りを作った。意識が遠のいていく。脳裏を少年の屈託の無い笑顔が横切ったその時、裸の美女が枕の穴から飛び出すのを見た。彼女は卑猥に腰をくねらせながら、私の血だらけの顔面に大きな乳房を押し付けた。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 01:47) フォント
発想
構成
表現
総合
く、暗い……。いえ、でも発想は面白いと思います。
ただ、冒頭のインパクトを優先させた為か、ちょっと主人公の事情説明が分かりにくくなってしまっていますね。多分、2つ目の段落分けは必要なかったんじゃないかと思います。そうすれば「恐竜→恐竜消える? 枕への視線→この枕を拾ったのは……」が「変な恐竜→この枕を拾ったのは……(主人公の説明)」となって、より物語に入り込み易くなると思います。あ、でもそうするとちょっと単調になるのかな……とはいえ、1つ目の段落で何か突飛な事が起これば読者としては2つ目の段落でその事情説明を期待してしまうので、その2つ目の段落が「昨日の昼から降り続けている雨が恐竜の肌を洗っている」だと、「え、部屋の中じゃないの? ?」と、ちょっと混乱してしまいます。突飛も二つ続くとこちらとしては困ってしまいます。続きを読めば分かるだろと言えばそうなんですが、この場合は特にショートショートなので、やっぱり疑問の早期解決を望んでしまうんです。
あと、公園で寝ているのが恐竜を見た次の日であることには何か意味があるのでしょうか。ホームレス狩りのことに言及したかったのかもしれませんが、そういう人がいるということは多分だいたいの人が知っていることだと思うので、それなら別に無くてもよかった気が。
他には、枕の穴は綿でふさがっていたのではないかとか、中から聞こえてきた声は中学生のものだったのだろうから「若い男」の声ではなく「少年」の声か「子供」の声なのではとか(このれは二重表現を嫌ったためでしょうか?)。ちょっと違和感が残りました。
ラストはそれまでの「無邪気さ」をひっくり返していて、うまいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 03:54) フォント
発想
構成
表現
総合
表現面で、恐竜の大きさを説明するのに「ポリバケツほど」というのはあまり適切ではない気がします。
あと最後で出てくる若い男は成長した少年(枕から出てきたものの一部)なのか現実のホームレス狩りなのかがよくわからなかったです。
発想はすごくいいと思いました。特に最後のあたりの展開は個人的に大好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 18:38) フォント
発想
構成
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総合
「年老いた男が拾った枕に少年の夢を見る」という着想を、主人公をホームレスに設定することで無理なく表現できていて、素晴らしいと思います。
宿無しの男がうつつを忘れ夢を楽しむ。その様子にはなんだか暖かいものが感じられます。そして急転直下の現実における不幸。終幕。面白いと思います。
「ホームレス狩り」という単語が説明の核を為し、さらに最後の展開の伏線にもなって、こんな短い字数制限でよくもここまで綺麗に盛り付けたな、と思います。

さて、ここが文章力向上の場であることを踏まえて、敢えて難点を述べさせていただきます。
ひとつは、男が夢を見ることを楽しみにしているという点の描写が薄いことです。この物語のミソは楽しい夢からいきなり暗澹とした現実に引き戻される(あるいは男の現実が夢のまま、終わってしまう)ことにあると思うので、この部分の描写が濃いほうが全体として綺麗な構成になるのでははないかと私は思います。枕と夢の説明描写はもっと薄くできるのでは。
もうひとつは、やや展開が安易であるということです。もうこれは私の我侭の部類になっている要求ですが。ただ、オチとして主人公を殺すというのは、物語を作る種類の人間から見れば短絡的かな、とも思えてしまうので。でも、1200字ですからね、ないものねだりでしょうが。

とても高水準の小説だと私は思います。これからもがんばってください。


以上です。失礼します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 22:05) フォント
発想
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総合
発想も面白いし、何しろ読者にいろいろと想像力を働かせてくれる書き方をされていて、とても面白かったです。
この作品のために本を買うかというと微妙なところですが、買った本にたまたまこの作品が載っていたら、きっと面白く読んだと思います。そういう感じで高レベルの作品だと思います。
次回も期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 18:13) フォント
発想
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うーん・・・なんとも。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 21:30) フォント
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ところどころぶつぶつと躓いたけど、総合的に見ておもしろかった。オチのインパクトが良かったからだろうと思う。
小説としても流れが止まらないのが良い。場所を変えてテーマと集中力を強制させるともっと楽しめた、と思う。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 01:11) フォント
発想
構成
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総合
裕福な家庭で育った少年が、なんらかの理由で落ちていく、それを枕が語るという発想は面白い。
ラストの夢の中の少年が現実となり、その中でも夢を見ているちょっとしたパラレルワールドで面白い。


□名無しさんからの批評 (2003/10/12 21:45) フォント
発想
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総合
ブラックなラストがきちんと生きている作品だと思います。無理矢理にオチを付けたのではなく、物語の必然としてのラストというか、単なる不気味さや狂気ではないので、こういうラストも好感が持てます。
枕というテーマの生かし方はもちろん、現代の持つ社会的な病理みたいなものまで、巧く表現されていて、他の作品もぜひ読んでみたい、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 13:52) フォント
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総合
恐竜を見た次の日にその公園に来た、という設定は無くても良かったのでは。それじゃあそれまでどこに居たの、と思いました。雨に濡れる場所なのだからその公園と似たような場所だという事は想像がつきますが、その場所へ移動した必然性がわかりません。描写力は確かなので、逆に細かいところが気になるようで、目を覚ました時間が妙にはっきりしているのもなんだか違和感を感じます。そこは曖昧にしても良かったのでは。
ラストは一気に緊張感が増して良かったです。上手いなあ、と感じました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 19:22) フォント
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総合
 確かに冒頭の「ポリバケツ」というのは表現として難しいかなと思います。ホームレスの主人公にとって身近なものとして利用されたのだと思いますが、大きさが具体的に伝わってきません。いっそ「1mくらいの」とか具体的に書いてしまってよかったと思います。
内容は面白く、それなりに緊張感もありました。しかし、1度読んで、何か物足りないなぁと思って、もう一度読んでみて気がつきました。主人公の描写が希薄で、どんな人なのか想像できないのです。
□セツナビトさんからの批評 (2003/10/13 22:08) フォント
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いいですね。どことなくほのぼのとした雰囲気が、ラストで一気にひっくり返される。他の方も書かれていますが、現代社会の病理ですよね。考えさせられました。

ただ、私の読解力が足りないためか、序盤の舞台の様子が想像できませんでした。時間が分かる=時計がある、で、室内かと思いきや、『昨日の昼から降り続けている雨が恐竜の肌を洗っている。』。じゃあ、どこだ? といった具合で。
あと、雨が降り続けているんですよね。なのに、雨に洗われている恐竜が、枕から見える位置にあった。枕は外にあったのでしょうか? いまいちよく分かりませんでした。

次の日に公園で寝床を見つけたという描写は、私も必要ないと思います。むしろ「そして今日もまた、私は公園を寝床にした」にすれば、冒頭の部分も公園での出来事だとすんなり分かり、そのあとの『この公園は〜』のくだりともうまく合うと思います。時計があることで、時間が正確にわかることも納得できますし(ただし「時計を見上げた」などの描写がないと分かりづらいですが)。そこそこの長さ住んでいなければ、縄張り争いやホームレス狩りの実態を自分の感想として(他の人から聞いたのなら「〜だそうだ」になりますよね)述べることは出来ないと思うので。

そして『若い男の叫び声』ですが、やはり中学生くらいの男の子を表現するにはあまりふさわしくないと思います。「少し幼さの残る声」などと言い換えることが出来ると思います(声変わりの具合によって表現は変わりますが)。

あと、中学生くらいの少年の夢の後は、順当にいくと高校生の方がいいような気がしますが……それではラストのシーンとかぶってしまうから避けられたのでしょうか?

ああ、いろいろ書いてしまいました。物語が面白かっただけに、ただのアラ探しになってしまった感もあります。すみません。アイデアと物語の運びはいいと思います。次回を期待しています、がんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 23:47) フォント
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『目を覚ます』や、『昨日の昼から降り続けている雨』などの現実を思わせる描写が、夢である恐竜やサッカー少年の登場に違和感を感じさせます。
夢と現実の境界線を曖昧にする描写の工夫をした方が良いでしょう。

『長い間に枕が吸い込んだ、持ち主の少年の夢だ。』という説明が、 ホームレス狩りの少年たちに襲われた後に、枕から出てきた『裸の美女』は、『私』の欲望を表しているのか、中学生になった少年の願望なのかをわかりづらくしています。
残念ながら作者がどちらを意図したのか伝わりませんでした。

発想は面白いと思いますので、その感性を大事にしつつ、表現力を磨いていただければと思います。

□水夫さんからの批評 (2003/10/14 15:38) フォント
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題材がとても良いです。話のわかりにくさもこれくらいであれば演出として良い効果が出ていると思います。収束はいまひとつ。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 23:45) フォント
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冒頭の恐竜の話で一気に物語に引き込まれます。とても印象深い出だしだと思います。

『若い男の声』→『中学生』と連想させる仕方はちょっと無理があるかと思いました。でもサッカーの部分には過ぎ去ってしまった(ホームレスの視点から見て)幼い日の輝きみたいなものが表現されていて切ないです。

気になったのは、ホームレス狩りの若い男を登場させる必要があったのかどうか。たしかに短い文章をまとめるには必要だったのかもしれないですがちょっと都合がいいなぁ、というか、別に登場させなくても終わらせられたんじゃないのかなぁ、という気がしてしまいます。
どうせならこの青年が枕の持ち主だったなんていうオチがあれば良かったのに、とも思ったり。

あと、中学生から『裸の美女』へは時間的な飛躍があるような気がします。

それから『嫌な夢を見て...』とありますが、この嫌な夢は枕なしで見たものだったのでしょうか?それとも枕と関係のある(枕から出てきた)夢(の一部)だったのかなぁ、とちょっと不思議に思いました。この部分は『嫌な夢』ではなく、『喉が渇いて』とか『遠くから聞こえる少年たちの声で』目が覚めたことにした方がよかったような気もします。厳密にいえば枕からくり出されるものはホームレスの夢ではないわけですが、でもホームレスだけに見える仮想世界という意味では夢に近いわけですから、話の中で夢の記述は枕関係のものだけにとどめた方が効果的かと。細かい点ですが。

次回もがんばって下さい。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 14:51) フォント
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総合
とても面白いお話でした。
ただ、ひとつだけ難点をあげるとすれば、ラストシーンの物足りなさでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 13:32) フォント
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総合
 ラストの消化不良な感じが好きです。突然投げ出されたように終り、悶々とします。主人公は夢の途中で気を失ってしまったから、ここで終わってるんだと思うので、モヤモヤしますがこれで正解かと。

 ただ、この世界観は解からない人には解からないかもしれません。それと、シーンが変わるときは一行スペースを空けるともっといいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/20 12:02) フォント
発想
構成
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総合
いつまでも少年は無邪気ではいないと言うラストが良かったです。
ただ、主人公の説明がなかなか出てこないので不安になりました。
□匿名希望様さんからの批評 (2003/11/08 15:47) フォント
発想
構成
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総合
発想が面白かったです。
つい見入ってしまいました。
途中少し読みにくい感じがしました。
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