「枕の話」
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 私の部屋には枕がある。
 ベージュ色を基調とした、紫色とピンク色のタータンチェックのカバーが掛けられている。トルマリンやら備長炭が使われた、最近流行の健康枕とは無縁の、しがない枕だ。何時から使っているのか覚えていない。多分、一人暮らしを始めた時から使っているんだと思う。
 そういえば、あの枕、洗ったことがない。カバーですら、気が向いた時にたまに洗う程度だ。あまり気にしたことがなかったが、相当汚れているかもしれない。

 そうだ、枕を洗濯しよう。
 次の週末、天気が良かったら枕を洗うことにした。

 日曜日、これまでの曇天が嘘のように、からっと晴れた。久々に窓を開け、部屋の中の空気を入れ替える。布団をがたがたと引っ張り出し、狭いベランダに干した。ふぅと一息ついて思い出した。そうだ、枕を洗うんだった。
 フローリングに転がる枕を拾い上げ、カバーを外す。洗濯機に放り込もうとしてふと、タグが付いていないか、枕をぐるりと一回り眺める。付いていない。まぁいいか、とそのまま洗剤と共に洗濯機に放り込み、スイッチを入れた。しばらくの間、ゴンゴンと音を立てて回る洗濯槽を眺める。くるくると回りながら中央に集まってくる泡が、幼いころから好きなのだ。好きになった理由は、特にない。

 やがて、白い泡が黒ずんできた。それは私の見ている前でどんどん黒くなり、気が付いてみれば墨でも流したかのように、真っ黒になっていた。泡の間から見える水も、心なしか黒い気がする。私は反射的に、バタンと洗濯槽に蓋をした。心臓が少しドキドキしている。私は冷静を装い、コーヒーを入れて、一口啜った。

 しばらくして、ビービーと耳障りな音を上げ、洗濯機が止まった。私は恐る恐る蓋を開け、枕を取り出した。水を吸って重くなったそれは、なんてことない見慣れた枕の姿だった。
 私はそれをベランダに干した。

 乾いた枕は、洗濯前の半分の高さになっていた。
 その晩、私はぺちゃんこになった枕を布団の上においた。カバーを掛けてみたが、なんだかしっくりこなかったので、中にタオルをニ枚詰めてみた。
 うん、いい感じ。
 私はその枕を使い、眠りに就いた。
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□匿名批評者さんからの批評 (2003/10/10 13:39) フォント
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全体を通してスッキリとしていて、この短い物語の中で窮屈さを感じることなく読めるのはいいと思った。
ただ、枕を洗う場面でその黒い泡についてもう少し詳しく書いたほうが面白くなりそう。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 22:43) フォント
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愛しい日常、という感じの作品ですね。どうという物語でもないのに、主人公にとても魅力を感じます。
たぶん、書き方とかさりげない表現のセンスが良いのだと思います。黒ずんだ水をみて洗濯機のふたを閉めてドキドキしたり、ぺちゃんこになった枕にタオルをニ枚詰めて納得したりとか、そういうところ。
またこういう作品を読みたいです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 21:19) フォント
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文句のつけようのないデキ。
構成は完璧だと思う。付け足すとこも減らすところもない。
語句単位で推敲してほしいとは思ったけど。でもまあ、些細なことだ。

□名無しさんからの批評 (2003/10/12 01:05) フォント
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すいません。話があまりに「些細な日常の1コマ」で完結しすぎていて、正直読んだあと物語自身から締め出しを食ったような気持ちになりました。
「起承転結」に内容を分けているのに、そこに書かれた物事自体はちっとも「起承転結」していないというか。そういう話だから仕方ないですけど、つまり、はっきり言って「お話」として「面白くない」、という感じもして、まるで語りかけられているのに無視されているかのような、そんな気持ちになりました。
すいませんが、これが正直な気持ちです。できればあなたの「面白い」と思って書いた話を読んでみたいところです。
□上の名無しさんからの批評 (2003/10/12 01:14) フォント
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訂正。『「面白い」と思って書いた話』ではなく、『「面白がらせよう」「楽しませよう」と思って書いた話』です。
僕にとってこの話は「フィクション」としてあまりに「創作性」が無さすぎます。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 01:35) フォント
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幸せな感じがした。
ぺちゃんこになった枕にタオルを足す。彼女はこうやって、足りないモノを自然に補って自然に生きてきたのだろう。
枕を洗っただけの話なのに、彼女の性格まで伝わった。
ただ、向上の趣旨で何か一言を、言わなければならないとしたら、インパクトがない。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 10:33) フォント
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一行目から違和感がありました。
『私の部屋には枕がある』。そりゃそうだろうと思わずつっこんでしまいたくなる文章です。『私が使っている枕はベージュ色を基調とした……』の方が自然かと。
『好きになった理由は、特にない。』とするら、その文章は要らないと思います。理由があるならそこから話が膨らむのだろうけど。理由もないのにどうして説明するんだろうと思ってしまいました。
あと、読点が多いです。スムーズに読みたいのに、配置の悪い読点によってつっかえてしまいました。

厳しい評価になってしまいましたが、雰囲気は良いです。次回作、楽しみにしています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 22:10) フォント
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短い中での爽快感、良いですね。ただ悪く言うと淡々とし過ぎているというか、あまり「創作」という感じを受けませんでした。もう少し練って、たとえば、洗おうと思うエピソードと黒い泡を絡めれば、もっと物語としてしまってくるような気がします。
でもこういうまったりとした雰囲気も味かも知れませんね。日常を爽やかに切り取って表現することは案外難しいものですが、そこを上手に書かれてらっしゃるので。
次回も楽しみにしています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 15:43) フォント
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こういう作品は、「日常」というひとつのジャンルとする考え方もあるのかもしれませんが、「うん。で?」と思ってしまうところも正直あります。悪い言い方をすれば、「ただの日記じゃん」と思ってしまうのです。何人かが批評されているように、もっと創作性が欲しいです。
□Rさんからの批評 (2003/10/13 18:36) フォント
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こういうのは小説というのでしょうか。私は著者のエッセイを読んでいるような気がしましたが。

確かに起承転結はっきりしており、まとまってはいます。エッセイや日記としたら最良の文章でしょう。
ただ、「小説」を期待していた私にとっては、消化不良となり、文章自体にも興味がなくなりました。
一度小説を書いてみてください。きっと良い話が書けると思いますよ。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 20:38) フォント
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なんとなく文中で作り出されたモヤモヤが消化されないまま流されてしまった印象を受けました。
あと、読点の位置が多少気になりました。例を挙げるなら二段落目の
『そういえば、あの枕、洗ったことがない。』
の部分は、一息に言い切っても良いような気もします。この辺は好みかもしれませんが。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 00:00) フォント
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読者は主人公の『私』の性別を『ベージュ色を基調とした、紫色とピンク色のタータンチェックのカバー』の色から推測するしかありません。
女性だろうとは思われますが、ちょっと微妙です。そういう色味が好きな男性もいることを考えれば、女性と決めるのも早計でしょう。

性別ももちろん、主人公がどういう人間なのかという記述がないことで、感情移入がしづらくなります。

例えば『私』の「嫉妬や怒りといった負の感情から流した涙を吸った枕」という前提条件があって、その枕から出た汚い感情の象徴である、洗濯機の中の泡や水に嫌悪感を抱いて蓋を閉めたというのは頷けます。
ただびっくりしてので閉めたのでは、ゴキブリが出現したのと変わりません。その行動に深みがないのです。

自分を省みてもわかることですが、もちろん人間の行動のすべてに意味があるわけではありません。しかしこの短編小説は1200文字しかないのですから、象徴的な出来事や伏線を上手く使わないと、すべてが状況説明になってしまっています。
かと言って伏線だらけになってもどうかと思いますので、そのさじ加減は難しいのですが。

荒削りであっても、主人公のキャラクターが立っていたり、人を惹きつけるストーリーであれば、描写や構成、文則といった技術面は、数をこなせばどうにでもなるものです。
上手なWEB日記という印象しか残らなかったのが残念です。
厳しいことを言いましたが、次回に期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 00:10) フォント
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枕の汚れ=自分の過去ということでしょうか。
最後にタオルを詰めたのは、新しいこれからの自分ということで解釈しました。
□月城さんからの批評 (2003/10/14 01:57) フォント
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「小説とは何をどういうふうに書いてもいいのだ」とは森鴎外の言葉で、奇しくも貴方の作品は鴎外の文体に似ています。
明晰な叙述で、心理や光景について嘘がない。
鴎外は「物語」にある曖昧な要素、明晰な真理から離れる前近代的な要素を嫌って、最終的には味気ない歴史小説を書きました。そこに至るまでの軌跡には貴方の作品のような簡素な日常の描写もあります。
この作品は、そうした「鴎外的な小説」としては、稀な成功を収めていると思います。
貴方には鴎外にそなわっていた詩人の素質もある。だから、小説に見えないという批判を受けても、この作品は幾人かの人に感銘を与え、テーマや意義を感じさせて、それは賞賛すべきことだったと思います。
ただし、鴎外の結論は必ずしも文芸の理想にかなっているとは言えません。
彼の精錬はあまりにも強烈で、目の前にある多くの現実を取り逃がしてしまう結果をもたらすからです。
だから彼以降の作家は自覚的に「物語」を書いたし、曖昧な心理を曖昧なまま(なおかつ真実に迫って)描くこともありました。
人は誰しもが鴎外のように揺るぎのない真理を創作に求めているわけではありません。
日常的ではない虚構的な出来事に真実を見出したり、分からないことを分からないままに空想を飛躍させて、突拍子もない物語を夢見たり。
そして地面に降り立って、自分の等身大の姿に絶望したり。
貴方は、創作について慎重になるあまり、当たり前の出来事として見える「本当のこと」は描いても、そういう突拍子もない物語的な「本当のこと」は描かなかったのではないですか。
それは鴎外と同じ轍を踏んでしまう。ぼくにはそれが今の時代で生産的とは思えません。
ぼくもほかの評者と同じく、貴方の書いた「物語」が読みたいです。日常の、エッセイ的で、鴎外的な小説ではなく。
(ファンタジーのような作品を、というわけではありませんよ。意外かもしれませんが、鴎外は幻想小説の名手でもありました)。
次の作品では、ぜひ。
なぜって、貴方にはその力があると思うから。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 15:53) フォント
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完璧に一人しか登場しない文章で「小説」をやるのはやっぱり難しいと思います。それに挑む方向性は好きですが、正直なところ「日記」の域にとどまっているかと。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 15:10) フォント
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物語的に、無理があるような気がします。今のは何の話だった?
そんな感じです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 08:46) フォント
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「日常」を表すということはこういう事なのか、と感心させられる作品。枕というテーマからここまで描けるというのは正直、羨ましい。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 14:39) フォント
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評価が極端に分かれる作品というのはおもしろいですね。
個人的には好きです。
話としての多少の起伏を保ちつつも、全体的に押さえた感じがとても良いと思います。淡々とした情景の描写、あるいは事象の羅列から、そこはかとなく漂ってくる独特の雰囲気があります。

ただ、これが戦略的に書かれたものなのか、偶然うまくまとまっただけなのか、判断に戸惑う部分もあったりします。なんとなくいいのだけれど、でも良いと思う自分に今ひとつ確信が持てないというか...
多分、そう思う理由はこの作品が、はたして一つの完結した作品としての自律性を持ちきれていないという点にあるのだと思います。いろいろな意味で危うい。
そういう意味で次作が楽しみです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/20 11:42) フォント
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文章はとても読みやすかったです。タイトルがストレートすぎる感もしますが。
洗濯中に洗濯層のふたをあけても大丈夫な洗濯機と言うのがイメージに沸いてこなかったです。普通はふたを開けると回転が止まるのではないでしょうか(もし私の無知から来る疑問だったらごめんなさい)。それとも二槽式なのでしょうか。
いったい洗う前の枕に詰まっていたものはなんだったのか気になります。半分になったらしっくりこないので、何かしら必要なものだったのでしょうか。
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