「枕」
セツナビト
 どんなにこわいときでも、これにほっぺをくっつけていれば、へいきなんだよ。あめがたくさんふったよるだって、かみなりがたくさんなってよるだって、そうしていればなかずにねむれたもん。
 だからだいじょうぶ。いまだって、ぜんぜんこわくないよ。

 少女は、枕から顔を離した。枕を鼻まで下げる。眉を寄せると、彼女は開いた扉の先にある廊下に目を向けた。
 ばちっ、と何かがはじける音がした。少女は身をこわばらせた。足元のベッドがきしむ。再び、彼女は顔を枕に押しつけた。
 だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。こうしていれば、いつのまにかあさになってるから。いつもそうだもん。そうじゃなかったことなんて、いちどもないもん。
 廊下から風が流れてくる。それを浴びた少女の体に、じわりと汗が浮かんだ。
 遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。額をぬぐいながら、少女は顔を上げた。カーテンの向こうで、赤い光が点滅している。そのたびに、彼女の顔が赤みを帯びた。
 彼女は部屋を見回した。前にも増して、空気が白く濁っている。廊下の方を見ても、オレンジ色の光がぼんやりと見えるだけだ。
 突然、ひゅう、と少女の喉が鳴った。少女は、顔を枕に押し付けた。体を揺らして、激しく咳き込む。目に、涙が浮かんだ。
 だいじょうぶだよ、だいじょうぶ……。ぜったい、すぐにあさになるから……。
 そのとき、階下から大きな音がした。続いて、足音と怒号が聞こえてくる。それらはだんだんと大きくなってきて――
 少女の前に、消防隊員が現れた。
「居たぞ――!!」
 階下に声をかけると、消防隊員は少女を抱え上げた。部屋を出て、足早に廊下を渡り、階段を駆け下りる。
 少女の体が大きく揺さぶられた。その拍子に、手から枕が離れた。少女が、か細い声を上げた。枕は階段に落ちた。一面に広がる炎が、なめるように枕を包み込む。
 少女は手を伸ばした。しかし、それが枕に届くことは、二度と無かった。

 消防隊員が、少女を抱えて現れた。騒然としていた見物人たちから、歓声が上がる。
「少し煙を吸っているようですが、特に怪我はありませんよ」
 救急隊員に少女を引き渡しながら、消防隊員が言った。ほっとため息をつくと、見物人たちは安堵の言葉を口にした。
「よかったねえ、無事に助かって……」
「本当に、これが唯一の救いだな……」
 そして、担架に乗せられた少女を見る。
「もう大丈夫だよ」
 救急隊員が、少女に声をかけた。しかし、少女は虚ろな瞳を宙に向けただけだった。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 02:27) フォント
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なんとなく内容が淡白な印象を受けました。少女はおびえている自分をごまかすために(唯一の逃避として)枕にすがっているわけだと思いますが、そうまでして(枕に逃避せざるをえないくらい)日ごろに感じている恐怖の対象が「あめ」や「かみなり」だけというのはちょっと説得力に欠ける感じがしました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 20:57) フォント
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話としては好きな類なんですが、冒頭が読みにくかったので、ちょっと取っ付きにくい感じでした。
平仮名で書く、というのは良いと思いますが、その部分だけでも文を短くして、改行も増やすなど、見た目のスッキリさを考えて貰えていたらな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 23:15) フォント
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読者の興味を引きながら最後まで読ませる構成が上手いと思います。
ただ、少女の枕への思い入れ具合の描写がが曖昧で、ちょっと物足りなさを感じます。どうせなら枕を追って火の中に飛び込んでいくくらいの展開があると、読者としては度肝を抜かれて楽しめます。
□匿名さんからの批評 (2003/10/11 00:45) フォント
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少女がその枕にどれぐらい思い入れがあるのか、冒頭部分からだけでは汲み取りにくいと思います。枕への思い入れ具合がよくわからないので、ラストで何故少女が放心状態にあるのか、つかみ切れませんでした。
中間部の、だんだん切迫してくる描写はいいなぁと思います。ハラハラさせられました。また、枕が階段の先に飲み込まれ、消えてしまった部分は、少女のか弱さを引き立てるのに効果的で良いと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 20:51) フォント
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一気に読ませて、色も匂いもしっかり伝わってくる文章だと思いました。
欲を言えば、他の方も書かれてるように、枕への思い入れがもう少し描かれていると良かったですね。枕でなくとも、たとえばぬいぐるみとかでも読めてしまうかな…とちょっと思ったので。
でも描写のひとつひとつが丁寧で良かったです。これからも頑張って下さい。
□Rさんからの批評 (2003/10/13 18:28) フォント
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良いと思います。特に表現する力があるな、と思うと同時に、それを生かしきれていない気がします。

まず、「一面に広がる炎が、なめるように枕を包み込む。」のなめるようにと言う表現。これが炎の不気味さ、怖さを表わしていて良いと思いました。「舐める」としてもよかったのではないでしょうか。賛否の分かれるところですが。
また、助け出されるシーンで描写を細かくしなかったのが良いです。テンポ良く、切迫感を感じさせる文でした。

ただ、平仮名の少女の声は特に必要なかったと感じました。上記されていますが、少しだけ多いと感じました。
筆者の方の力なら、ここのところを少女の様子の描写で書けるのではないでしょうか? 最初の怯えるシーンにこそ、枕に強く顔を押し付ける描写がほしかったです。

さらには「少女」と「彼女」の代名詞の使い分けがよく分からなかったです。意図して使われていたのでしょうか? ちょっと御一考あれ。主語を省く、という手法もありますよ。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 19:09) フォント
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マンガチックだなぁと思いました。良くも悪くも。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 23:43) フォント
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腑に落ちない事がいくつかあります。
なぜ扉は開いていたのだろうかとか(小説には開いている必要があったのはわかりますが、なんらかの理由がないと普通は閉まっているだろうと思いますし)、冒頭のひらがなから察すると主人公は4〜6才かなあと思ったのですが、途中から「少女」に変わっていて、一般的に(私だけかも知れませんが)少女と言えば十歳〜十六、七歳の感が私にはあるので、どちらかといえば、「少女」ではなく「女の子」の方が誤解がないような気がしました。
だから、はじめの「少女は、枕から顔を離した」の箇所を読み始めた時、ひらがなの冒頭部分は回想シーンかなあと誤解したりして、何回か前後を読み直しました。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 16:02) フォント
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この作品では成功しているとは言えませんが、淡泊な書き方が持ち味に成りうると思います。

「おかあさん」「おとうさん」を呼べない理由がちょっとでも書かれているとだいぶ印象は違ってくるかも。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 15:18) フォント
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皆さんと同じで、少女の枕への思い入れがもう少しあればよかったと思います。
他は、とてもよかったです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 13:15) フォント
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2行目の「たくさんなって」は誤字なのかそういう表現なのか気になってしまいました。
また、
この子は良く助かったなあと思いました。落とした枕がすぐに燃えてしまうほど炎が迫ってきていたのに。
他人にとっては何でも無いものでも、自分にとってはかけがえの無いものだってあると言うことが言いたかったのでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 00:18) フォント
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句読点と「少女は」と「彼女は」が多すぎるような気がします。
あまり一文がだらだらと長いのもどうかと思いますが、句読点は多用しすぎると文章が細切れになってしまいます。音読してみると良いかもしれません。

↑指摘されているように、枕である必然性は感じられません。冒頭部から考えればかなり低年齢の少女と思われるので、むしろ、ぬいぐるみの方が小道具としては良いように思えてしまいます。

平仮名の文字について。この文字数にしては、平仮名の部分の比率が高すぎますし、怖がっているのが天災だけなのだったら要らないような気がしました。
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