「J」
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 初めてJの部屋を訪れた時、ベッドの上に散乱している枕の数に驚いた。数えてみたら二十一個もあった。
 Jの家は小学校のすぐ横に建つ古い木造の一軒家で、二階にあるJの部屋からは小学校の校庭がよく見えた。畳の六畳間に机とベッドとコンポが一つづつ。ポスターも何もない殺風景なその部屋で、青やピンクのカバーに包まれた枕だけがやたらとカラフルだった。
「捨てられなかっただけなんだ」Jは言った。「でも、安心するんだよね。たくさんの枕に囲まれていると。身体が安定するせいかな」
 開け放した窓から掃除の時間の音楽が聞こえてくる。私たちが通っていた頃と同じ曲。私とJは小学校の同級生で、考えてみたら十年以上もお互いのことを知っているのだけれど、実際に言葉を交わしたのはつい最近のことだ。転校生だったJは、積極的で面倒見のよい優等生グループにいつも囲まれていて、どちらかといえばおとなしくて目立たない子供だった当時の私にはJと話をするチャンスなんてなかった。そんな私たちがまさか付き合うことになるなんて。
 それにしても、Jのことならランドセルをしょっている頃から見てきたのに、Jが毎晩こんなにたくさんの枕に埋もれて眠っていたなんて今の今まで全く知らなかった。もしJと付き合うことがなかったら、きっと一生知ることはなかったに違いない。Jが子供の頃から使っているのであろうアニメ柄の枕に手を伸ばしながら、私はJがここで過ごしてきた時間と、それが彼にもたらしたものについて思いを馳せた。
 注意深く見回してみると、古いながらも隅々までよく使い込まれたJの部屋には、私の知らないJの生活の痕跡がいくつもある。擦り切れた畳の表面。コンポの後ろの壁にうっすらと残ったJの手の平の跡。微妙に変型した抱き枕やカバーに残った染み。私が知らなかった、想像したこともなかったJの日常。それを私は知っていくのだろうか。そしていつか、二人でたくさんの枕に埋もれて眠るようになる日が来るのだろうか。
「一つ一つの枕に決まったポジションがあるんだ。だから一つでも欠けると落ち着いて眠れない」そう言いながらふと顔を上げたJは、眼が合った瞬間、嬉しいような困ったような不思議な表情を見せた。君を知りたい。でも、どうしよう、どうやったら君に触れることができるんだろう。Jの眼が語りかけてくる。
 その瞬間に私は、ごく自然に、でも切実に、Jのことを知りたいと願った。一つ一つの枕に刻まれたJの想い出。枕に埋もれながらJが見る夢。ひょっとしたら知らないままでいたかもしれないいろいろなこと。見たくないこととか知りたくないことも全部。
 知って、そしていつか二人で思い出したりするのかもしれない。私たちが初めて触れあった日のこと。枕の柔らかさや窓から入ってくる子供達の声と一緒に。
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□Rさんからの批評 (2003/10/10 09:41) フォント
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情景としては良い。ただ、話になっているかが問題。ある物語のワンシーンとしては良いが、短編としてはあまりにもまとまりがない。筆者はきっと、最後の段落でまとめようとはしているのだが……。

さらには体言止めの多用。詩的な雰囲気を出すために、故意に用いているのならば、それはそれで構わない。ただ、話のテンポが単調になることを念頭に置いて下さい。

きっと、詩を書くと上手いと思います。後は、文章の全体的な筋、構成
に視点をやると、もっと良くなると思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 10:48) フォント
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「J」はとても魅力を感じる登場人物設定になっていると思います。
それが気になるので、最後まで読めますが、どうも言いたいことが絞りきれていないような気がします。小学校の同級生とか転校生とかのエピソードは、そんなにくどくど書かなくても良いのでは?
それよりも、「私」が「J」に強く惹かれる心情の変化をもっと丁寧に書いてあると、ぐっといい作品になる気がします。
あと、文章に少々読みにくい部分があるので、推敲にもう少し時間をかけてみると良いと思います。
個人的には好きな路線なので、次回も期待しています。
□匿名さんからの批評 (2003/10/11 23:01) フォント
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叙情的な描写一つ一つが素敵だと思います。ただ、そればかりが目立ってしまって、1200字という制限の中ではストーリーがあまり見えてきませんでした。また、全体的に平坦な印象をうけました。もう少し、話に山と谷があるといいと思いました。
後は、改行を入れた文章の切れ目がはっきりすると、もっと読みやすい作品になると思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 22:24) フォント
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あまりメリハリのあるお話ではないけれど、「私」の気持ちがよく描けていると思いました。個人的に少女漫画をよく読んでいたので「幼かった自分たちがいつしか恋に落ちて、その先にあるもの…」というようなお話が懐かしく胸に迫るのです。むしろ長編で読みたい物語かも知れませんね。
短編はギュッと絞り出さないと伝わりにくいと思います。ギュッと絞る為に、必要な部分とそうでない部分の取捨選択をもう少し練ってみたら、もっと素敵な物語になったのではないでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 13:50) フォント
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 生活の痕跡の表現がリアル。そこから引き出される感情も無理がない。風景を描写することで人物が浮きあがる、淡々とした雰囲気はよいと思います。
 ただ、一段落目とそれ以降の段落に、時間の段差があるようで妙に落ち着かない気がします。「初めて〜時」という記述で過去の話だと思っていたら、「今の今まで〜」というところで現在の話だと気付いてすこし混乱しました。最初の一文を現在形にすれば繋がって読みやすくなると思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 14:28) フォント
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「捨てられなかっただけなんだ」と言ってますが、もっといい枕が欲しいから新しいのを買って増やしたんじゃないの? 
と思ってしまいました。
もし古くなった枕を買い換えたのなら、枕の状態(やぶれかけてるから可哀相なので新しいのを買ったとか)の描写があれば、Jが枕を大切にしている事がもっとわかりますし、枕が増えていく様子でもあれば、Jの人柄がもっとよくわかって、高感度も上がるのではないでしょうか?
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 00:16) フォント
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他の方も言っていますが、あまりに淡々としすぎています。
また私もJも文章から女性のように思えます。同性愛を否定するわけではありませんが、やや首を傾げてしまいました。

何故人名をJとする必要性があったのか最後まで分からなかったのが残念です。
(もっとも字数の都合というだけではないですよね?)
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 16:08) フォント
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甘いなあ、と思いますが、こういう微妙な描写だけの短編、好きです。

「ベッドに大量の枕」というモチーフを成立させただけで全部を許容します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 15:23) フォント
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二人の情景にリアルさを感じられませんでした。
淡々としすぎたのでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 13:10) フォント
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ストーリーとしては、少女マンガのようで親しみやすいです。
ただ書きたいことがいっぱいあるのはよくわかります。
しかしそれが絞りきれていないと言うか、途中まで書いたところで制限字数が来てしまったと言う印象を受けました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 00:44) フォント
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どうでもいいことかもしれませんが、なぜイニシャルなのだろう?と疑問。あえて普通の名前にしない意味がわかりません。

主人公の年は10代後半から20代前半くらいでしょうかね。21個の枕は多いだろうとか、ベッドの上に全部乗ってるのも無理だろうと突っ込みたくなります。テーマに無理矢理合わせたような気がしてならない。

『私』が付き合わなければ知ることのなかったJの意外性を知った割には小学校時代のJを伺わせる文は『転校生だったJは、積極的で面倒見のよい優等生グループにいつも囲まれていて』だけというのは弱いです。Jがどんな少年だったのかというエピソードがないと、読者には意外性が伝わってきません。

『私の知らないJの生活の痕跡』の後の描写は自然で良いと思いました。
□匿名希望さんからの批評 (2003/10/24 07:33) フォント
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青春のスナップショット。まともな青春というものを知らない私はそこで感動してしまう。
で、批評ですな。沢山の枕には沢山の思ひ出がつまってるのか……
うんうん。枕がいっぱい。質素な部屋に枕がならんでいる序盤は気に入りました。惜しむらくは結末でしょうか。1200字にはみなさんご苦労されているようで、まったりと次回作をお待ちしておりまする。
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