「独白。」
さよ
妻がね、枕になってしまったのですよ。
あなた驚きませんね。私、気が狂っているとお思いですか。どうでしょうね。仕事はきちんとこなしております。先日、昇進もいたしました。なんの仕事って、まあそれは後にしましょう。あなたは妻の話が聞きたいのでしょう、そうではありませんか?
で、妻の話ですね。この奥の蒲団の上に、万年床なんですよ、すみませんね、って関係ないですかあなたには、ええ、なんでしたっけ、そうそう、蒲団の上にですね、枕が置いてあるのですけれどもね、その枕が、妻と同一人物、いや、枕は人じゃないですか、そうですか、でしたら、なんでしょう、まあ、妻が枕であり、枕が妻であると、そんなふうに、思えて仕方がないのですよ。
いや、始めから枕が妻だったなんてわけないじゃないですか。人間でしたよ、と言ってしまうのも変ですけど、人間だったですよ、あのころはね。あのころ、っていつだったのか、ちょっと思い出せませんけれど、私は、ここにね、この部屋にね、妻と二人で、そうこの時は確かに二人だったですね、二人で、住んでいたのです。
妻は無口な女で、外に出るのが嫌いで、しかも、こちらに知り合いがなくって、というのも、一人で私のところに嫁にきたのですからね、だから、私が家にいない間の様子は、あれ、どうだったのでしょう、どうだったんだろう、どうだったんですかね、知りませんか、知りませんよね、そうですか、そりゃそうですよね。
話を戻しますか。私、家を空けることが多くてですね、え、浮気なんかしてませんよ。仕事です仕事、大事な仕事なのですよ。そりゃ多少はね、さみしい思いをさせたかもしれませんけれどもね、最初からそういう話だったのですからね、文句を言われてもですね、といって、何も言いませんでしたがね。どう思ってたんでしょうかね、いったい。
それで、ある日私が久しぶりに家に帰ってみると妻は枕に変わっていたのです。家出ではありません。事故なんて縁起でもない。捜索届ですって、冗談はやめてください。妻はこの家にいるのです。この障子の陰にです。
困っていることですか。何も困っちゃいませんよ。身の回りのことくらい自分でできますからね。
別にさみしくなんかないですよ。だから、妻はここにいるのです。これでいいんですよ。妻も、本望なはずなんです。妻はわたしの帰りを待つ。私は毎日帰ってくる。どこへも行きはしません。妻の、望んでいた生活ですよ。そのはずです。そういう女だったんです。いや、そういう女なんです。だからこれでいいんです。わかりますか?
さてそろそろお引取り願えますか。私は寝なきゃならんのです。そう妻とですよ。明日も仕事がありますのでね。ご苦労さまなことでした。それでは。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 02:19) フォント
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面白いです。うまいです。
一種の「皮肉」(ちょっと言葉が違うかな)をそのままオチなしで物語化しているわけですね。それをそのままスーッと読ませるのはかなり文章力があると思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 11:53) フォント
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面白かったし、読みやすかったです。最後の最後まで読者の興味を引き続けてくれる書き方(表現力も構成力も兼ねて)、レベル高いなぁ、と感嘆しました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 19:17) フォント
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これは小説なんでしょうか。こういうジャンルは未体験なので物語を把握しきれませんでした。訴えたいことも、読解力がないのかよくわかりませんでした。独特な世界なのでうまく入り込めなかっただけかもしれませんけど。
だけどテンポがよくてすんなり読めました。

批評者としてまだまだなので、勉強させてください。
□匿名さんからの批評 (2003/10/12 15:04) フォント
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発想がとても面白いですね。最初の一文で「え?」と思わせ、そのままどんどん読者を引っ張っていく文章だと思いました。
「私」の視点からの世界しか書かれていないので、いろいろな解釈の仕方が出来て面白いと思います。文章をそのまま取ってもいいし、「私」が都合よく世界を歪めているのかもしれないし。
ただ、ちょっと読点の数が多いかなぁ、という印象を受けました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 18:24) フォント
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離婚されて壊れた男という話だと解釈しました。
短い中でよくまとめたなという感があります。
情景描写がなく、語り部の言葉しかないので、そこからいろいろ連想できたのが面白かったです。

行頭の一字字下げをやっていればもう少し印象が変わっていたかと思います。
□若葉さんからの批評 (2003/10/12 20:55) フォント
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 他の批評者の方に便乗する形になりますが。
 上の名無しさんとちょっと似てるんですけど、私は万年独身男の脳内妻の話だと解釈しました。語り口調の文章なので、あたかも主人公が私の前で妻の話をしているようでした。

 ただ、せっかくリズムのある話なのに、必要ない読点があってリズム乱れてしまう箇所がいくつかありました。読点の付け方をもうちょっと研究してみてはいかがでしょう。

面白い作品でした。今後に期待します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 07:32) フォント
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語り口調に夢野久作の「悪魔祈祷書」を思い出しました。どこかひょうひょうと、読者に目くらましを食わせるような、感じは好きです。
でも、話の内容はもうちょっと毒気があったほうが、この語り口調に似合うように思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 19:24) フォント
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オチを色々想像できるという点だけでも、発想、構成ともに良い出来だと思います。欲を言えば、もっと皮肉や毒を入れても良いと思います。

他の人も書いてますが、段落ごとに一マス空けても問題ないと思いますので、空けたほうが良いでしょう。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 16:20) フォント
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あのですね、町田康とかいるじゃないですか、いわゆる饒舌系の作家の。その模倣じゃないかと思ったんですが、違うでしょうか。あるいはイッセー尾形でしょうか。「ああこういうパターンか」と思ってしまった私としてはいまいちノリが悪いな、という評価しか出来ないんですが、そこそこの仕上がりにはなっているんじゃないかと、ええ。他の方のコメントにありますとおり、読点が過剰ですね。こういう文章の場合「息継ぎ」が読点なんですよ、この作品の読点の量ですと、子どもの「ええとね、きょうね、お子さまランチをたべたんだけどね、おいしかった」みたいな口調を感じてしまうんですよまったく。ついでに、いっそのこと段落は切らずにだらだらと書いた方が1200字程度だったら楽しいんじゃないかと、ええ、思います。
□Rさんからの批評 (2003/10/14 17:48) フォント
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例えば、あなたが独白するとしたら、こういう語り方をするのでしょうか? でしたら、私はあなたとは付き合えません。

なぜかというと、中心となっている話の間に、読者への問いかけがあまりにもたくさん入っており、話全体がぼやけてしまう。(文章中、中頃の「あれ、どうだったのでしょう、どうだったんだろう、どうだったんですかね、知りませんか、知りませんよね、そうですか、そりゃそうですよね。」)
あなたが、話をする時にはそんなに同意を求めたりするのでしょうか。それよりは、淡々と語られた方が雰囲気も伝わる。
少しなら構わないと思います。今回の作品のなかにも、端側にありながらも中心を大きく補う描写がありますが、それにしてもくどい。

語り口調ならもっとスマートに。こういう手法の作品なら良作がたくさん世に出ていますので、テキストとして読んでみてください(個人的には嫌いですが。。。)。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 20:16) フォント
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 妻に逃げられた男性が、誰か(読者ではなく)に語りかけている。そういったシチュエーションにある、と私には読めました。いや、題に独白とあるので、あるいは不幸な男が壁に向かって話しているだけかもしれませんが。

 冒頭が上手いです。これだけで、最後まで読んでやろうと感じさせる一文です(事実一気に読みました)。普通独白であれば台詞が説明的に傾いてしまいがちですが、問い返しを使うことで上手く回避できていると思います。ひっかかるとこなく最後まで読め、それでいて充分に男の摩滅した精神状態やその背景まで知ることができるので、表現力は充分にあるのではと私は思います。
 また、独白で小説を構成しようとした発想は面白いと感じました。

 さて、この作品で私が最も問題に感じたのは、果たしてこの文章が物語たりえているか、ということです。数日間おいて私が考えてみた結論を一言で言えば、微妙だな、というところでしょうか。
 男の独白を通して、男の心情、状況がわかる。それだけで物語と言えるかどうか?それは未だわかりませんが、少なくともこの作品が読者(私)に情景、背景などの様々な想像をさせたことは確かです。読者に考えさせる力があれば、すでに物語、小説と称しても問題ないでしょう。
 けれどそれはつまるところ、読者の作品に対する問題意識によってこの文章が小説になるかただの文章になるかが決まってしまうということです。問題意識の高い読者に標的を絞ってしまうことは著者様の本意ではないでしょうから、改良が望まれる点であると思います。

 そして以下は批評を読んで思ったことです。
 多くの人が、この作品の読点の多さを指摘しています。私はこの指摘の多さを面白いな、と思いました。率直に言って、私はこの読点の多さはありだと思います。地の文ならばともかく、会話文にあっては読点の調節によってその人の喋り方が想像できるので、そういった効果を著者様は狙ったのではないかと私は想像したのです。過剰な読点によって、はきはきと喋る男ではなく、どこか気弱そうな挙動不審な小男が独白しているのだと私は想像しました。
 ただ、こういった工夫はどうやら一般には受け入れられないようですね。これは実は私にとって意外だったので、面白いと思ったのです。著者様も手法の参考になったのではないでしょうか。


批評は以上です。失礼します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 21:00) フォント
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↑に追加です。

 読点の多さについて言いたかったことは、読点の多さを否定するのではなく、読点を多くする手法を使うときは工夫を施す必要があるようですね、ということです。誤解なきよう付け加えておきます。

以上です。長文の上に補足で、失礼致しました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 14:45) フォント
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読みやすかったです。読点や問い返しの多さは、主人公の性格を表現するのに有効だと思いました。そこに狂気が見え隠れして、雰囲気を作り出す一因になっていると思います。
ただ、独白の後に他者の視線から見た世界の描写があると物語に深みが増すかな、と思います。好みの問題かもしれませんが。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 15:31) フォント
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一気に入り込めるお話でした。
段落を空けない事は気になりましたが・・・
作者の世界に引きずり込まれてしまうようなお話ですね。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 09:39) フォント
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リズム。気に入りました。句読点を上手く利用し、読者を最後まで引っ張っていく、見習いたいと思います。次回作、楽しみにしています。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 13:00) フォント
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妻が枕になると言う発想は好きです。カフカ的ですね。
ただ、そこに何のオチも無いと言うか、妻の気持ちが全く語られないと言うことにぞっとしました。
妻は枕になって幸せなのか?夫とともに寝ることを望んでいたのか?
できれば妻の視点で描いてほしかったです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/17 20:58) フォント
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妻は死んだのかな?

リズムも良く、私にはひっくり返ってもかけない文体なので読んでいて感心しました。解釈を読者に委ね、それでいて分かり難いわけでもない。
とても面白いと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 01:57) フォント
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独白調の文体に、太宰治の「駆け込み訴え」を思い出しました。このお話にはとても合っていて良いと思います。

ただし小説なので段落は下げましょう。私は読点がの多さよりも句点読点が、逆でも良いのでは?と思うところが随所にありました。

内容については、語り手がなぜ「妻が枕に変った」と信じるに至ったかを描いて欲しかったです。
確かに「妻が枕に変った」と言わせるだけでも、この人はおかしいんだなと思わせるには十分かもしれません。
そこを更に、傍から見たら怪しげな、それでも本人にとっては大真面目な理由付けをした方が、心の狂気が際立ったと思います。

『家出ではありません。事故なんて縁起でもない。捜索届ですって、冗談はやめてください。』は上手いなと思いました。この一文にはやられました。

□名無しさんからの批評 (2003/11/06 06:01) フォント
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趣味が分かれるとは思いますが、最後まで読ませてしまう文章だったので、一気に読めてしまいました。他の評者が書かれているように、もっと毒っ気や皮肉が入っていた方が面白かったかも知れませんね。夫婦というものにまで思いを膨らませると、なかなか意味深な物語になっているかと思います。脳内妻なのかどうなのか…その辺を完全に読者に預けてる辺りも気に入りました。
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