「東京ひとりぼっち」
美也子
 眠れないのはきっと、ここが東京だから。夜なのに蒸し暑く、おまけにこの明るさ。窓の外にはひときわ明るい東京タワーが見える。この街には、夜も朝もないんだろうか。
 そう思いながら佑子は幾度目かの寝返りを打った。さっきまでぎゃあぎゃあと枕投げをしたりコイバナに花を咲かせていたのが嘘みたいだ。修学旅行も終盤、疲れも出てくる頃で、部屋中に満ちた安らかな寝息の中、布団のすれる音がやけに響く。佑子がひとりぼっちになった気がしてため息をつくと、応えるように隣の布団からひそやかな声がした。
「眠れない?」
 ゆっくりと目を開ければ、隣の布団で苦笑している麻美が見えた。それは本物の笑顔に見えたから、佑子はなんだかほっとした。元はといえば麻美が心配で眠れなかったのだ。
 麻美はいつも明るく元気なのに、実は内気で傷つきやすい。その弱さを見せないのが麻美のプライドで、笑顔を心の防具にしているのを、幼馴染の佑子は知っている。

 その親友が恋をしたのは、佑子も仲のいい男友達だった。告白の日を修学旅行中に決めたのも、相手を呼び出したのも佑子で、絶対にうまく行くから、と言って背中を押した。
 だから、やっぱ振られたよ、と帰ってきた麻美の笑顔が胸に痛い。その笑顔の裏を勘ぐって、けれど結局何も聞けずに、佑子はたださっきから寝返りを繰り返している。
「そっち行ってもいいかな」
 囁く麻美に頷いて、佑子は掛け布団を持ち上げる。その隙間に転がりこんだ華奢な体を抱きとめた。細い指がひんやり冷たい。
「だけど、振られてさっぱりしたかも」
 相変わらず麻美は強がりだ。その口調に逆の心が透けて見えて、佑子は何も言えない。麻美は腕を絡めて、そのままころんともぐりこむように佑子の右肩に頭を乗せる。腕枕の形になった。佑子は麻美の髪を撫でる。
「さっさとあきらめついて、よかった」
 言葉とは裏腹に、麻美が声を殺して泣く。右腕がひたひたと濡れていくのを感じながら、泣き濡れた日の枕はこんな気持ちなのか、と佑子は思った。涙も吐息も鼓動もこんなに近い。呑みこまれてしまいそうだ。
 枕が涙を吸って次の朝を呼ぶのなら、枕になった佑子にもそれができるだろうか。朝日を求めた窓に赤く光る塔が見えて、ここが東京でよかった、と佑子は思った。この明るい夜が、あの灯りが、ひとりぼっちを救ってくれる、そんな気がしたのだ。麻美がぎゅっとしがみついてきて、消え入りそうに囁いた。
「佑子が相手じゃ、かなわないもん」
 え、と聞き返す声が宙に浮いて、佑子の手が止まる。麻美は肩を震わせて、ただ泣きじゃくるばかり。
 ひとりぼっちのふたりの夜を、ひとりぼっちのタワーが見ている。朝は、まだ遠い。
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□名無しさんからの批評 (2003/10/10 20:18) フォント
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東京タワーは基本的に0時で消灯してしまうことを知っている僕には「夜も朝もないんだろうか」という部分に苦笑してしまいました。
でも、修学旅行生なら0時は真夜中なのかもしれないですね。
落ちの部分はちと無理を感じます。「かなわないもん」と言うために布団に入ってきたのでしょうか?そこまで皮肉なことができる子が泣きじゃくるってのがどうも...。
□Rさんからの批評 (2003/10/11 05:58) フォント
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良いと思います。
話自体はありきたりな感がありますが、それを余りあるほどの状況描写で補っています。
蛇足になりますが、上の批評文を読んでから感じたのですが、私がもし、東京タワーが夜0時で消灯することを知っていたならば、さらに主人公が中学生、加えて都市部の人間でないことが分かり、さらに良い評価をしたと思います。

ただ、惜しむらくはインパクトがないことです。話としてのインパクト、文章としてのインパクトが少々かけているように思えます。
一度、一人称、祐子の視点で書き、心情を細かに書くことができれば、もっと良くなると思います。さらに、その力を筆者の方は持っています。頑張ってください。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 12:01) フォント
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とても良いとおもいます。ありがちな青春の1ページという感じなのですが、修学旅行の雰囲気にもリアリティがあり、とても共感できます。
上の方と被ってしまいますが、ちょっと淡々としてしまっているところがあるので、私もこの裕子視点での一人称の形式で読んでみたいと思いました。
次回にも期待します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 15:45) フォント
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女学生の切なく甘酸っぱい感じが伝わってきました。泣き濡れた日の枕の気持ち、という表現がとても良いなと思いました。
あと何度か推敲したら、もっと文章に深みが出るように感じます。
他のみなさんも書かれておられますが、祐子の気持ちがもっと表現出来ると、読者の胸により響くものがあるのでは、と感じました。
次回も期待しています。頑張って下さい。
□若葉さんからの批評 (2003/10/12 16:08) フォント
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 まずタイトルの付け方が気に入りました。「東京」にいるのに「ひとりぼっち」。このコントラスト。

 偏った読み方かもしれませんが、私は主人公である祐子よりも麻美に感情移入して読みました。これは麻美の物語で、祐子はあくまで主人公を装った語り部。自分が想いを寄せている男の子が自分の親友のことを好きだったら。しかもその親友は、恋愛に於いて、自分ではとてもじゃないけど敵いそうにない魅力的な人だとしたら。そう思ったらとても悲しくなりました。

 『そっち行ってもいいかな』の前に改行があったら、時間の流れに線を引くことができるので、更に良かったと思います。文字制限のせいでできなかったのでしょうか。

 とても良い作品だと思います。私の心を少女時代に帰してくれた、そんな物語でした。
□名無しさんからの批評 (2003/10/13 18:44) フォント
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女の子の小さな失恋の話、という印象でした。文章は引っかかることなくすっと読めました。
ただ読んでいて彼女らの会話に感情移入できなかったのは、私が男だからか、それとも年をとりすぎたからか、難しい所です。
発想と構成を『葉−』という評価でお願いいたします。
□匿名さんからの批評 (2003/10/14 16:11) フォント
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ストーリーそのものはありがちだと思いますが、思春期の女の子が恋と友情の間で揺れ動く様子が上手く表現できていると思います。
消化不良だったのが麻美の描写で、ラストへの持っていき方が強引な印象を受けました。気の強い女の子って、親友にはふと弱いところを見せてしまったりするのでしょうか。祐子がどのような人物かが文章から読み取れると、最後の麻美の言葉にもっと重みが出てくると思いました。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 16:34) フォント
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普通によく書けています。あとは個人的な好みの問題。

個人的には不満もないけど、希望もないという、ある意味致命的な印象でしたが、とても楽しまれている方々もいるようなので、このままで良いと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 19:24) フォント
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二人のやり取りがとてもよかったです。
あえて、ああいうラストにする必要は無いような気がします。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 12:56) フォント
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こういう少女マンガ的な話は大好きです。
佑子も麻美が告白した男友達のことを好きなのかと思っていたのですが、ラストの感じでは違ったんですね。
□名無しさんからの批評 (2003/11/01 01:36) フォント
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『コイバナ』といった表現はどうかと思います。『さっきまでぎゃあぎゃあ〜嘘みたいだ。』は、佑子の思ったことでしょうから、佑子の年齢からしたら良いのかもしれませんが、会話文以外での略語はいただけない気がしました。これは私の好みの問題かもしれないですが。

『苦笑している麻美』が『本物の笑顔に見えた』というのは謎。

全体的に『その』『そんな』といった指示語が多いと感じます。特に『言葉とは裏腹に、〜枕になった佑子にもそれができるだろうか。』は、指示語の使い方を考えた方がよいと思います。

ラストの一文の『ひとりぼっち』は、対比させるためにあえて2度使ったと思われるが、あまり良い出来になっていない。

良い描写もところどころにあると思ったのですが、全体的な表現力としては現時点では今一歩。今後に期待します。
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