「四角い枕」
長野マイ
「はい、誕生日おめでとう」
 昼間そう友人から手渡されたのは枕だった。それも、江戸時代の人が使っていたような四角くて固い枕。とりあえずお礼を言って受け取ったものの、考えてしまった。だって、なんで誕生日プレゼントに枕?しかもこんな……。枕をみつめる私に友人が説明してくれた。
「その枕はね、起きたい時間の数だけたたいて眠ると次の日のその時間に必ず目覚めることができる枕なんだよ。もし6時に起きたかったら6回たたくの」
 それっておまじないじゃなかったっけ、と思いながら、私はふざけて6回たたいて寝た。
 目が覚めると、6時ちょうどだった。一瞬びっくりしたけど、面白い偶然もあるものだと少し楽しくなりながらその日の夜もなんとなく次の日のバイトに合わせて7回たたいて寝た。そして、7時ぴったりに目が覚めた。次の日もその次の日も、たたいた数の時間ぴったりにきちんと目が覚めた。私は少し怖くなった。だけどそれ以上に、便利なものを手に入れたと思った。この枕があればどんなに夜更かしをしても寝坊の心配はない。バイトや約束に遅れることもないし休日も有効に使える。なんて素晴らしいものをくれたのだろうと友人に感謝した。

 普段はその枕は使わずにそれまで使っていた枕で寝ている。やっぱり固くて寝心地が悪い。バイトや大事な用事がある日の前の晩だけ押入れから出してぽんぽんとたたいて寝る。次の日の朝は時間ぴったりに目を覚まして、私は余裕を持って出掛ける。思い通り、遅刻をすることも寝すぎて一日を無駄にすることもなく、私は充実した毎日を送っていた。
 そんなある日、バイトをクビになった。
 ずいぶん前から経営が苦しかったらしい。私だけでなく他にも何人か辞めさせられた。一人暮らしでフリーターの私が、一体これからどうやって生活していけばいいのだろう。その日、残った何人かのバイト仲間がお別れ会を開いてくれたけど、どうにも盛り上がらなかった。
 帰り道、ふとあの枕のことを考えた。あの枕はたたいた数の時間に目が覚める枕。じゃあ、たたかなかったら…?少し酔っていたせいもあったと思う。突然無職になって先が見えなくて、なげやりな気分だった。もう何もしたくないし何も考えたくなかった。
 家に着き、押入れから四角い枕を出して布団に置く。そしてそのままその上に頭を乗せ、目を閉じた。

 だけど、いつまでたっても眠ることは出来なかった。ああ、それもそうか、と妙に納得して、次の日に朝から新しい職探しをすべく7回たたいて寝た。
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□匿名批評者さんからの批評 (2003/10/10 01:42) フォント
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こういう小説というジャンルの場合、ら抜き言葉というのはどういう風に扱われるのかわからないけれども、個人的には気になった。しかし逆に考えれば、口語調で書くことによって日記っぽい感じが出て一人称の小説だといいのかもしれない。この辺は好みなんだと思う。
最後辺りの展開は、読み手を惹きつけるのでいいと思う。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 12:46) フォント
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軽やかな文章ですんなりと読めました。
最後の段落が面白かったです。
でもなんでわざわざ古い枕でも寝るのかな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 19:25) フォント
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ショートショートのお手本のような小説だと思います。テーマも重すぎず軽すぎず、起承転結もしっかりと篭められ、文体も口語的で読みやすく、変にべたべたと詩情を気取っているわけでもなく、好感が持てます。情景、話の流れもとても自然です。

悪いところも指摘しなければならないと思うのですが、特に目立った瑕疵は無く、この小説はほぼ完成品だと言えると思います。ただ言葉選びの拙さは感じるので、そこを磨いてはいかがでしょうか。

批評は以上です。失礼します。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 20:50) フォント
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発想が面白くて、楽しく読めました。
ちょっと起承転結のつながりが唐突な印象でしたが、作風を考えるとこれはこれで良いのかな、と思いました。
オチで、目覚めないのかな?なんて、読みながらドキドキしてしまったんですが、眠れないだけだったんですね。
まんまと逆をつかれましたが、現代的な感じで、かえってスッキリと読了できました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 23:26) フォント
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純粋に楽しんで読めました。
最後の段落があることで読後感も良く(この部分を削除してブラックな予感のまま終わるというのも、読者には印象的ですが)、現実の中の不思議な話として無理なく帰結していると思います。
次回も期待しています。
□ななしさんからの批評 (2003/10/11 03:10) フォント
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うあぁ、やられた。まとまってるのだ。キチンと。
ラストがとても気に入りました。きっと何度も考えたんだろうなあ。そして、この綺麗なラストシーン。うーむ。私にはできない。次回、期待してます。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 17:08) フォント
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ところどころの表現が少し気にはなりますが、読みやすく、ラストもすっきりと爽快感がある感じで、短編としてとてもよく書けている作品だと思いました。主人公の愛嬌みたいなものが、きちんと伝わってくるのは凄いな、と感じます。次回作が楽しみです。頑張って下さい。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 05:39) フォント
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よかったです。このまま目覚めないのかなとドキドキしてしまいましたが、落ちもすっきりしててよかったです。
この枕欲しい。笑
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 12:37) フォント
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叩かずに寝ると目が覚めない、と主人公は予測したように読めますが、そのあとに眠れないことに気付いてやっぱり枕を叩いて眠る、という心理の移り変わりが面白いです。文体のトーンも一定で、途中で引っかかることもなくすらすらと読めました。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 17:00) フォント
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設定が秀逸。突飛な設定に対して淡々と話が進むのも良いです。設定と展開が綺麗にかみ合っています。良かったです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 23:05) フォント
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負けました。
うまいです。
話しも、読者の引き込み方もうまいとしかいえません。
完敗です。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 16:04) フォント
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素直に面白いと思いました。起承転結がしっかりしているので、安心して読めます。
ただ、少し読点が無いので一気に文を読まされる箇所があったのが気になりました(もっとも、それも表現方法の一種といえばそうなのかもしれませんが)。
その点を考慮しても、全体としてはいい作品だと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 20:03) フォント
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発想と構成は文句ないです。軽はずみなオチでない所が(目覚めなかったとか)好感持てました。

少し気になったのは

昼間そう友人から手渡されたのは枕だった。

この↑部分で、引っかかりました。
昼間そう言って友人から〜の方が読みやすいのではと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/15 20:39) フォント
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オチが読めませんでした。
やられた、って感じがしました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/18 13:55) フォント
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 稚拙さの残る文章ですが、読みやすくて良かったです。
 ラストは私も目が覚めないのかと思いましたが、「そうはさせないよ」と言われたように逆の展開だったので悔しかったです。やられました。
 個人的に、英数字は全角ではなく半角を使ってほしいです。些細なことですが。
□名無しさんからの批評 (2003/10/19 19:04) フォント
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ちょうど良い長さ、ちょっとドキッとする展開。でも悲しい結末じゃない。お手本のようです。拍手拍手。
□匿名さんからの批評 (2003/10/22 11:52) フォント
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前向きの明るい内容で、読み終わってすっきりとした気分になれました。後半のストーリーの展開がいいですね。加えて、「私」の前向きで明るい性格が、随所から感じられる素敵な話だと思いました。
ただ、読点が少ないせいか、読んでて少し息切れがしてしまいました。段落の切り方も少し不自然な気がします。そのあたりの推敲をもう少し重ねると、もっと良い作品になると思います。
□名無しさんからの批評 (2003/11/01 04:15) フォント
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ストーリーが面白かったです。前向きなオチも良かった。

文字数が厳しいかもしれませんが、なぜ友人がこんな不思議な枕を手に入れたのか、というエピソードがあれば更に良かったと思います。
変った友人ということでも良いし、もしくは、骨董市か何かで不思議な老婆から買ったことにするのもありだと思います。

読点の少なさは皆さん指摘されていますが、特に『面白い偶然もあるものだと〜7回たたいて寝た。』は読点がないので読んでいて苦しいです。

『昼間そう友人から手渡された』は私も引っかかりました。
「誕生日プレゼントに友人から手渡されたのは枕だった。」にして、冒頭の友人のセリフは無くても良かったのでは?
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